アキハバラ@DEEP 石田衣良著

んー、やっぱりすごい、バリバリの流行作家だ。
あと何年かしたら、この人はどんな作品を作るんだろう。村上龍みたいになるのかなー。たのしみだ。いろんな意味で。
今日のお昼に買って、5時間ほどで読み終わった。この人の作品は、読みやすい。文章が平易で、それは、言い換えるととても「上手」だってことだ。ここらへん、一気に書いたんだろうなーなんておもう部分もある。一気に書くと、同じような言い回しが増えてしまう。前のページにあったのと同じ表現が出てくると、「あ、ここ一気に書いたな」とかおもう。それがまた楽しい。
内容としては、じつは読みながらかなり泣いた。どこで泣くんだよ? と読んだ人には思われるかもしれないけれど。泣いたよ、あたしは。二人が誘拐されて、ページが持病を使って危機を回避したとこが、一番の泣きどころだった。自分の一番のコンプレックスだった部分が、一番の武器になる。それって、すごいことだ。いろんなことをおもいだした。
主要人物のページは吃音で。わたしは一時期、ひどい吃音をもっていた。今でも、急に唾液が呑み込めなくなり言葉が出てこなくなることがある。首を振るチック症ももってて、未だに意識していないと抑えられない。こういう身体が勝手に動いてしまうものって、ほんとうにどうしようもなくつらい。指摘されても一番しんどいのは本人だし、わざとやってる訳でもなんでもないのだ。
高校を卒業する直前、ある塾の講師が、おりえの真似だと云って、首を振った。すごく恥ずかしくて、悔しかった。今だったら全部笑って流せるけれど、あの頃はまだ、チック症をとても気にしていた。
「そういうのってさ、びっこ引いて歩いてる人の真似って云うて片足引きずってるのと一緒やで?吃音の人の真似とか、本人の前でできるん?」
言い捨てたけれど、やっぱりジクジクしたものが胸につかえて、一日中吐き気がおさまらなかった。俺が悪かったといってみんなの前で謝られても、わたしの心は何も晴れない。コンプレックスっていうのは、ほんとうに根深いものだ。
今、友達に何人か吃音の人がいる。誰もその人と話をしていてイライラしたり急かしたりしない。最初、その環境が、とても素敵にみえた。その人の吃音も何もかもを、その人の一部として受け入れているみんなが頼もしくおもえた。それまで見てきた人は吃音をバカにして「だから何が云いたいねん」なんて平気で云うことが大半だったから。なんてひどいことを云うんだろうって、不思議で仕方なかった。急かすこともなく、ゆっくりいつまでも話を聞いているわたしを吃音の子は「優しい」と云ったが、違うよ。わたしの行動が「まとも」なだけだ。
石田衣良のすごいところは、ずっと社会を見つめていることだ。ちょっと出来過ぎ! っておもう部分もあるけれど。それでも、一連の作品は、エンターテイメントとして傑作だし、たった5時間で読破してしまうほど読みやすく、引き込まれる。ずっと、この感性や感覚をもって書き続けてほしいな。