ふうううう

東京で仲良くなったなおちゃんという子に、「おりえがなおこの悪口云ってたよ」って吹き込んだ子がいて。
なおこはそれを聞いて本気で凹んだ。

なおこは、かずくんみたいな一面があって、すごい頑固でマイペースなのに物腰が柔らかいせいで御しやすいと思われがちなのだ。だから、ちょっと狡賢い人には手駒として扱われてしまう。

それがイヤで、あたしはいろんな人をなおこから引き離した。なおこが「居心地よくなったぞー」と喜んでいた矢先だった。

なおこは一人で悩んで、二人の共通の友達に相談したらしい。
「おりえが私の悪口云ってるとか聞いて、今凹んでるんだよ」と。共通の友達であるみっちゃんはものすごい怒って「おりえがそんなことするわけやいやろ」と。

怒られて、あ、そうだな。おりえは違うなと思ったなおこが電話してきた。
あたしはすごい笑ってしまった。「ああ、悪口云ってたよ。あの女バカだよな〜とか云うよ。でも、それはあたしらの夫婦喧嘩だろ?なおこの目の前で云えることしか云わないよ」

「そうだよな、おまえそういう人間だよな。おれ間違ってた」

なおこはスレンダー美人なのに口が悪く素直だ。なおこはすっきりした!と云いながら、夫婦喧嘩だよな、夫婦喧嘩と繰り返し嬉しそうだった。


でもね、なおちゃん。その悪口云ってたよって吹き込んだ子、悪く思っちゃダメだよ。今ね、気が弱まっててつらいんだよ。自分を守ってくれる大きな手が欲しかったけれど、手に入らなかったんだ。その寂しさはなおこになら分かるだろ? すごく寂しい子なんだよ。今手元に人がほしい。女王様タイプだから。でも、おりえは強くて自分じゃコントロールできないんだ。あの人頭は良いから。だからなおこに目をつけたんだよ。でも、すごく寂しいからそういうことしちゃうの。だから、嫌いになっちゃダメだし、悪い子だと思わないでほしいんだよ。おりえの悪口言い出したら、そうだよなあの女最低だよなーって云っとけ。それをどこかで聞いたら、あたしはナオコに愛されてるなぁって笑い飛ばしてやるよ。

おまえ良いヤツだなー
なおこは呆れながらも、そうだよな。それは寂しいよな、その寂しさは俺も分かる痛いほど分かると納得してくれた。なおこの方が良いヤツだ。

なおこはいつも3人で食事に行った帰りは車で途中まで送ってくれる。
駅であたしを降ろすときに「おりえ! 愛してるよ」って云う。

ある日、ぽつりと云った。
「俺な、人に愛してるなんて云ったの、おりえが初めてだ」

それはあたしの愛を感じてるからだよ。

素直に、嬉しかった。


みーんな寂しい。みーんな苦しい。どんなに愛されても、どんなに温かい手があっても、足りないんだ。つい欲張ってしまうから。

欲張るのは悪いことじゃない。
でも、悲しいな。

このなおこに悪口云ってたよって吹き込んだ子は、ほんとに悪い子じゃないんだ。
明るくて利発で、ただ、ずるくならないと生きていけないような環境で生きてきただけなんだ。

切ないよなぁ。