人間不信になりそうなボク


新しいママになった女は、オリエっていう名前だ。誰もこの女の苗字を呼ばないのでフルネームは分からない。調べようとおもって、こっそりオリエの携帯をいじっていたら、ママンに送ったメールが出てきた。
件名「コフル」
虐待はしませんが、人間社会の厳しさは教えようと思います。朝起きたら、乾布摩擦。釜戸に火を起こして米を炊かせ、わたしの入浴時には、三助として全裸で奉仕。体重が変化するほど背中の垢を落とさせます。体重に変化がなければ、罰として羽をむしります。羽がなくなれば若鳥の唐揚げに。ダイエットに貢献すれば、褒美として羽を好きな色にカラーリング。とりあえず、手始めに釜戸のある家に引越します」
なんてところに来てしまったんだっ!とぼくは恐怖に羽を逆立ててしまった。せっかくのセットが乱れて、あとでとても後悔した。
ついでにママンの返信を探すと「笑いが止まらない。コフルもいよいよ修行の時代。頑張れよ! と大阪から声援を送ります」って、ママン、どこで笑ったの? 体重が変わるほどこの女が垢を溜めこんでるってとこが面白かったの?
ママン、ぼく、何一つ頑張れないよ。三助として全裸で奉仕って、ぼくはいつも全裸だよっ! 何一つ修行にならないし、修行を終えて行き着く先がまったく想像できないよ・・・
一大決心をして、ぼくはこの家を飛び出すことにした。こんなところにいたら、ぼくは焼き鳥にもなれないくらいやせ細って、天然のジャーキーになってしまう。骨がついたままのジャーキーなんて食べてももらえないよ・・・
外は寒いから何か着て行こうとおもったら、ちょうど良いところに温かそうな布があった。ちょっと締めつけがキツいなとおもいながらも、その中に身体をぐいぐいねじ込んだんだ。
途中まで入って気づいた。この布には、足を出すところがない!
しばらくもがいていたら、オリエが戻ってきた。
「あぁ、寒かったんかぁ」
なんて云いながら、ぼくを救出してくれたんだ。こいつは、おもっていたほど悪いやつじゃないかもしれない。
そうおもって、ここ数日の自分の愚痴を反省していたら、オリエは携帯を取り出して、ぼくをまた布に突っ込んだんだ。ぐいぐいと押し込まれて、すごく苦しかった。
「お、いい感じ〜」
そう云うなり、携帯のカメラで写真を撮られた。
ママン、ぼくは純粋すぎて、人を簡単に信じてしまうみたいだ。どんどん心が荒んでいくよ・・・