ズレ おりえとわかこの場合

最近、二人でどうして私たちは社会に順応できないのか、ということを考えている。
今私は車の免許を取りたいとゴネている。わかが猛反対している。誰かが死ぬからやめてくれ、と。おりえは死なないだろうけれど、絶対に誰かに迷惑がかかる、おまえは自分の運動神経を知っているのか! と本気で怒ってるのだが。
「でもさ、免許取ったら、車買うねんで」
わかの目が、きらりと光った。次の言葉を待ってるのだ。
「軽トラ、どうよ? 白いやつ。新車で」
わかの期待は満たされ、夢が膨らんでいるのが分かる。
「んじゃ喧嘩したら、今日は私は車で寝る! とか云えるんかな」
「うん。云えるよ。わかのバイトに軽トラで迎えに行ってあげる」
「うおおおおっ、軽トラ最高!」
一丁あがり。
わかを口説くのは簡単だ。相変わらず、免許はとってはいけないと云ってはいるが、軽トラの話になると、心が激しく揺さぶられるらしい。
そんな二人が今一番行きたいところ。アキハバラ。髪は2:8くらいに分けて。リュックを片方だけかけて持ち。ズボンにシャツをインでしょう。当然です。インですか、インですよ。ぐふふふふと二人で笑い、今、いつ休みが合うかを検討している。
そんな二人の心をわしづかみにして話さないラーメン屋。田園調布にあるシナ蕎麦。繁忙時間である午後7時に店主は客席に座り新聞を読んでいる。いつか私がまた誰かを傷つけたときに、自分に罰を与えるために食べに行くよと云ってるのだが。「それ、おりえが人を傷つけたら、私も一緒に罰を受けるの?」。当たり前やろ。あたしにだけそんな苦行を強いるのかワカコ。「どんな味なんやろ」「いかんでも、美味しくないってことは分かるな」「うん。ドキドキするね」。ずっとこんな調子だ。
渋谷や新宿には怖くて行けない。派手な化粧のお姉ちゃんとかが、怖いのだ。食べられちゃうね、うん、怖いよね。で、いまだに一緒にそういう繁華街には足を踏み入れてはいない。
引っ越ししたばかりで色々買い揃えないといけないときに、私たちは、毎日近所の3階建てのしょぼいジャスコに日参した。全部ジャスコで揃える気でいた。20代の独身女がジャスコ。お金がないわけじゃないのにジャスコ。さすがにジャスコだけでは揃わないので、蒲田に行った。家から渋谷まで電車に乗ったら15分、家の玄関からでも30分なのに、なぜ蒲田なんだ、ってことすら、他人に指摘されるまで気がつかなかった。蒲田で揃える気満々だった私たちだが、Franc francの椅子がほしいと次に向かった先は川崎。
「せめて横浜に行きなよ」
そんな忠告が新鮮だった。ああ!横浜! でも横浜は広いし・・・ ビッグカメラとヨドバシがあるから、ビブレに行かずに電機屋に行っちゃうの。だから横浜には行かないの。おりえがヨドバシとビックカメラを何往復もして動かなくなるから。ワカコが困るの。困って一人でケンタッキーでお茶を飲んで待ってるのが落ちなの。
「おまえはおっさんか」
Nさん、今いいこと云った。
これで社会に順応したい、女の子っぽくならないと彼氏ができないとぎゃあぎゃあ喚いているのだからどうしよぉもない。
そらオビワンで笑うわ、って感じでしょ?