うばうひと

ありさから電話があった。こいつから電話があると、あたしはいつも、無視しようか悩む。結局取ってしまうときは、絶対に泣いてる。昨日も泣いてた。うざいな。
彼氏が持ち出した別れ話。ありさは別れたくない。どうしたらいいのか教えてくれ。どうやったら気持を戻せるんだ、と。
ありさはさ、ちょうだいちょうだいしか云わんやろ。守って、愛して大切にして って。そんで、ありさは何をしてるのよ。会うたびに煙草を一本ずつちょうだいって云う人ってさ、うざいやろ。1回2回ならどうぞって思えても、それが重なると、たかが煙草1本でもイヤになる。ありさは、煙草をもらい続けてるだけやねん。たまにはカートンで買って返せよ。ありがとうって。分かる?」
うん、分かる。そう返事した声は、もう泣いていなかった。あたしは晩御飯を作る片手間にありさの相手をする。がちゃがちゃと調理器具が音を立てる。何かしてるの?
「うん。その程度の涙、料理の片手間で十分やろ」
はい。じゅうぶんです。

もらってばっかりの人がいる。ちょっと返して、返済した気になる。
たとえば100が標準値の愛情量だったら、その100は、自分の分だ。そこには他人に注ぐ余裕はない。どこかから30もらってきて、自分の愛情タンクが130になって初めて30他人に振り分けられる。愛情がほしいなら、相手のタンクを130にするまで注がないといけない。そこで初めて、30受け取っていいのだ。奪う人は、相手のタンクを100にしたら、満足してしまう。そして、そこから奪うのだ。相手は枯れる。自分は潤う。自分が潤っていないと、寂しい、愛されてないと喚き、相手のことを気にかける余裕がなくなっている。
器が小さいのではなくて。自分のことしか考えてないのだ。それはそれで羨ましいが。一緒にいるには、これほどしんどい相手はいない。
これからまた、しばらくありさの電話が続くんだろうな。今日も電話があったから。きっと、あと4日は続く。この腐れ縁は、一生続くんだろうな。こいつだけは、めんどくさいのに、どうしても切れない。