オリエの一日

昼過ぎに目覚めて、かずくんに長い長いメールを送り。ネットゲームにログインして、放置できるとこまでセッティングしてシャワーを浴びる。
さぁ今日は何をしよーかなー と思っていると、メールが。
「韓国の出版社の人と打ち合わせ。自由が丘に17時に来れるな?」 来れるか? ではなく、来れるな? であるところが、ミソです。韓国の出版社ってなんやねん。訳分からんわ、と思いつつ、何かあるのだろうと出かける。16時50分、自由が丘到着。17時20分、師Nさんは来ない。やっと電話があり、「ああ、Nです。オリエ、今どこや」「どこやって、改札で待っとけって云うたやないですか。改札にいてますよ」「ああ、そうか。もう喫茶店入ってるんや。○○ってとこ、分かるか。そこに来てくれ」。こんなことで怒ってはいけない。この程度でうろたえてはいけない。
茶店に到着。というか、歩いているときから、妙に注目を浴びていた私。なんか田舎者って感じすんのかなぁ。でも、自由が丘も田舎やしなぁ。なんでみんな、じろじろ見るんやろ。 周囲の視線には、たいがい鈍い私でさえ気付くくらい、注目の的になっている。
茶店に到着。Nさんを見つけ歩み寄ると「おお、来たか。ん・・・ なかなか似合うやないか。いいな、それ」 ストレートにした髪を似合うと云っているのかな、それとも上着を誉めているのかな。分からない。とにかく誉められているので嬉しくてへへへって笑って、席に座る。あれこれ打ち合わせが進み、なぜ私が呼ばれたのかさっぱり分からないまま時間が経つ。少し話が途切れたときに、Nさんが私に向き直って、云った。
「で、おまえ、どないしてん、そのバケツ」
Nさんは、私の膝に置かれているバケツを見ながら云った。自由が丘に待ち合わせよりほんの少し早く到着したので、見える範囲のお店を散策したのだ。その時に、小さいバケツを見つけた。グレイの小さなバケツは、とても便利で可愛らしい物に見えて、420円という値段にも惹かれ買ってしまったのだ。東京はゴミの分別が面倒なので、ビニールにいれてくれるというのを断り、私は剥き身のバケツを買い物カゴを腕に掛けるように持って歩いていた。思いの外に便利で、一緒に買ったノートも計量スプーンも、財布も定期入れも、全部バケツに剥き身で放り込んであった。タバコも入っていたので、膝に置いていた。そのバケツのことを、Nさんは尋ねているのだった。
「どないしてんって、買うたんですよ、駅前のお店で。良いでしょ」
「で、駅前で買って、駅前から腕にぶら下げて歩いてきたんか」
「そうですよ。何でも入るから便利なんですよぉ。・・・あああああああっ。これのせいか!!」
私は、ここまできてやっと、周囲の不審な眼差しの原因を理解した。
「妙にバケツが似合ってて、びっくりしたよ。しかし、バケツをそんな風に持ち歩く女は初めて見たよ。おまえはほんまに稀有な視点を持ったやっちゃのぉ」
最初に誉めてくれたのはバケツだったのか・・・ ちょっと乙女心が傷ついた。注目されていた原因は理解したけれども、やっぱり何も恥ずかしくないし。オカシイとも思えないので、そのまま家に帰ったのだけれども。
バケツを持って歩くと、目立つ。ってことが、今日分かった。いい勉強になった。