やっと感覚が戻ってきた

「ふぅー、やっとここまで戻ってきたなぁ。正月に戻ったな」
正月。ああ、オゾマシイ記憶。一日数時間の睡眠で、50枚を毎日毎日書き直し、毎日毎日赤を入れられ泣いて笑って大変だった、あの、正月。確かにあの頃の私は結構なレベルを保っていた。だって、本当にしんどかったんだもの。あんだけしんどい思いしてたら、誰でもこれくらい書けるわ・・・ そう思っていた。Nさんは、完全復活した私に「とりあえず、その腐ってた脳みそを一回辿り着いたところまで引き戻そうな」と云っていた。それが達成できたのだ。わーい。
んじゃ次のステップだ!と云われ、姿勢を正した私に飛んできたのは、私の家庭環境についての根掘り葉掘りの詮索だった。
正直、うちの家庭問題なんてどこにでもあるつまらない話だ。「私の人世はそのまま小説になる」なんて云ってる人が羨ましくて仕方ない。どうせなら、もっとめちゃくちゃな環境で育ちたかったと望んでしまうくらい中途半端で小説のネタになんてなり得ない。なので、Nさんにはあまり話したくないのだ。うーん、と聞かれたことにだけ渋々答えているうちに、Nさんの思惑が分かってきた。
「ああ、そっか!」
呟いた私にニヤッと笑って、分かったか? おまえの渇きは、それや。と。ああ、これかー。すっげー、おりえより、おりえのこと分かってますねぇ。一頻り関心していると「おまえは可愛いのぉ。アホすぎて」
アホすぎては余計じゃ。
「お父さん、おりえ、ちゃんと書くよぉ」
「あほ。しょうもないこと云うてんと早よ帰れ」
Nさんの目からは厳しさが抜けて、暖かい微笑みが満ちていた。ずっとその顔だったら良いのにぃ。
とりあえず、ここまで戻ってきたから、やっと先に進めます。達成感、やっと感じた。